タイル張りバルコニー床を、かぶせ工法で防水工事
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さて、バルコニーの防水工事だ。
理事会は今も変わらず、できればバルコニーのタイルを残したいという意向だったから、こっちもその線で考えていくことにした。
した。
まずは過去に断念した工事、つまりタイルをはがしてから張り直すというオーソドックスな工事、ができないかを検討した。
した。
でもやっぱり却下するしかないという結論に達した。
資金的にとても無理。
結局ダメだったわけね。
やっぱりタイルを取っ払って、長尺シートを張る方法しかないかなと思ったりもしたんだけど・・。
したんだけど?
ここでもういちど管理組合に確認することにした。とりあえず現状ではタイルを維持するのが難しそうなんですけど、 まだ諦めずに可能性を探ってみますか、それともここで諦めて長尺シートで我慢しますかって。
本気度をたしかめたんだ。
そういうこと。ここでモタモタして準備が長引けば、工事の開始が遅れるし、理事会の負担も増えるし、コンサル費用だってかさむ。 その犠牲をはらってでもタイル張りにこだわるつもりなのか知りたかったんだ。
そしたら向こうは?
理事会は意見が割れた。もう長尺シートでいいじゃないかという意見と、いやどうしてもタイル張りでという意見。
バトルになったんだ。
別にケンカにはなってないけど議論は白熱した。徹底的に話し合おうじゃないかと、何度もミーティングを開いた。 1回の平均が6時間。最長で8時間したこともある。
よくみんなウンザリしなかったね。
最後はタイル推進派の一人が自作パワーポイント資料でプレゼンをしたんだ。 このマンションにとっていかにこのタイルが重要か、このタイルがあったからこそみんなこのマンションを買ったのではなかったか、 みたいな内容を。
猛者ですなぁ。
それでついにタイル派の意見が通った。
めでたしめでたし。
コンサルにとってはあんまりめでたくないんだけどね。
難しい道を選択されたわけだから。
方向性を決めるのは管理組合
今回のケースでいえば、タイル張りを諦めて長尺シートにするのが無難な道、一方であくまでタイル張りにこだわるのが困難な道です。
わざわざ困難でチャレンジングな道を選ぶ理由は、コンサルタントの側にはありません。 なのでもしも管理組合が、めんどくさいから無難な道でいいよというのなら、こちらとしてもそのほうが有り難いぐらいですから、 じゃあそれでいきましょうとなります。
反対に、管理組合があえて困難なほうを選びたいというのなら、 こちらとしても、では少しぐらい無理をしてでもその気持ちに応えよう、となります。
つまり同じコンサルを起用していても、管理組合がどの程度に熱心であるか、どの程度に意思を主張するか、によって大規模修繕の方向性は変わりうるということです。
新たな工法の発見
さて、バルコニーの防水工事だ。
何とか資金の範囲でタイル張りを実現したい。
したい。
何かいい解決方法がないか、色んなメーカーに電話をして尋ねたり、現場を見てもらったりして、検討を重ねた。
ご苦労さま。
その結果、今のタイルをはがさずに上から新しいタイルをかぶせる方法があるらしいことがわかった。
ん、どういういうこと?
古いタイルをはがして防水してから新しいタイルをはり直す、のが普通のやり方だけど、 そうしないで、古いタイルをはがさないまま上から新しいタイルをかぶせてしまえばどうだろうってこと。↓
【ふつうの工法】
【かぶせ工法】
まぁダブルバーガーみたいな構造にするってことだね。
ダブルバーガーに何のメリットがあるのさ?
古いタイルをはがす手間がはぶけるから、コストの2〜3割カットが見込めるんだ。 それなら何とか資金の範囲に収まりそうだった。
じゃあ解決したというわけですか。
意外とあっさりでしたな。
ううん、ところが問題がまだ2つあった。 1つは重さの問題。
重さ?
バルコニーの重さ。床とタイルをダブルバーガー構造にすると、そのぶんバルコニーの重さが増えるじゃないか。
まぁそうですな。
その重さにマンションが耐えられるのか、この時点ではまだわからなかったんだ。 これから計算してみますと管理組合には伝えた。
なんか不安だねそういうの。
うん。それに加えてまだ問題があった。このかぶせ工法を採用するとね、 材料メーカーが、どうも防水保証をつけてくれない雲行きだったんだねこれが。
なんでつけてくれないのさ?
前例がないから。そんなイレギュラーな工事に保証をつけていいのかわからないってこと。
むこうも不安なんだ。
この世界では前例が大事だからね。ちょっとでもレールを外れたやり方を提案すると、途端に嫌がられる。
困ったね。どうしましょう。
かぶせ工法の前例をもっていて、防水保証をつけてくれるメーカーを探すしかない。
そんなメーカーあるの?
あるかどうかを探してみるんだ。
ご苦労さま。頑張ってね。
話を整理しとこうか。この時点でクリアしなければいけない問題が2つあるんだった。↓
- バルコニーのかぶせ工法の重さにマンションが耐えられるのか検証する
- かぶせ工法に防水保証をつけてくれるメーカーを探す
この2つの作業に時間を取られるから、工期も管理組合の手間も、ついでにいえばコンサル費用も、さらにかさんでしまうことになるんだけど、 それでもいいからやってくれと頼まれた。
バックアップは万全だね。
まさにその通り。もしここで、面倒だからタイルやめて長尺シートでいいですよ、と言われれば、 こっちだってじゃあそうしましょうとなる。コンサルに100%の仕事をさせるには、管理組合のサポートが不可欠なんだ。
で、けっきょく問題はクリアできたわけ?
まず重さの問題は、計算してみた結果、大丈夫だとわかった。 はじめにウチの一級建築士が計算して、念のためゼネコンにも構造図を持ち込んで確かめてもらって、大丈夫とのお墨付きを得た。
よかったね。
あとは防水保証の問題。これもメーカーを片っ端から当たったら、プールの防水工事をやってる会社が見つかった。 そこはかぶせ工法の経験が豊富で、10年保証をつけてもらえることになった。
意外とあっさりクリアしちゃったのね。
簡単にいうけどね、耐荷重の計算をするのも、メーカーを探すのもけっこう時間と手間がかかってるんだ。
ああそうですか。
防水保証をつけてくれる会社も、本当は2社見つかったのよ。 でも1社は技術上の問題から今回のバルコニー工事には向かないとわかって・・ そういう検証作業にも時間を取られてる。
ご苦労さま。
管理組合だって大変だったと思うよ。こっちがあげた報告を、そのつど集まって検証しないといけないわけだから。
ウンザリしてたかもね。
でもそこで音を上げなかったからこそ、求める工事を実現することができたのだ。 イレギュラーな工法を選べば、コンサルも管理組合も仕事が大きく増えてしまうけど、 簡単に諦めないことが大事なのだ。
なのだ。
こうして苦労の甲斐あって、マンション自慢のタイル張りバルコニーを残すことができた。 管理組合にも喜んでもらえたよ。
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