知恵を絞って費用を抑える工事プランニング
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イダケンの任務は低予算での大規模修繕を完遂すること。
建物診断の結果を元に、どこをどのように直すのかプランを立てます。
ここで費用を削減する知恵を出せるかが、コンサルタントの腕の見せ所。
頑張ります!
1.バルコニー床の修繕プラン
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人工芝張りのバルコニー。
かなりの汚れが見られます。 -
経年による人工芝の汚れ。
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塩ビシートを敷いたバルコニー床。 やはり汚れが見られます。
↑床のウレタン防水層は完全に劣化してボロボロの状態。
ウレタン塗膜防水の全面的な修復工事以外に打つ手なしと判断しました。
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バルコニーの笠木。
ひび割れを起こしています。 -
手すり下の笠木。
塗膜が剥がれています。 -
笠木がひび割れています。
↑バルコニー笠木も経年劣化により、ひび割れや塗膜の剥離が目立っていました。
全面的な補修が必要と判断。
けっきょく全面的に直してばっかだね。
バルコニー床は傷みが激しくて、それしか手がなかったんだ。
全部直してるとお金かかるんでしょ?
積立金足りるの?
この部分では節約できなかったけどさ、まだまだ勝負はこれからだよ。
2.屋上屋根の修繕プラン
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屋上の金属屋根です。
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傷とサビが見られます。
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表面にチョーキングが起きています。
↑屋上の屋根の状態はおおむね良好でした。
通常であれば防水工事をしてから、塗装を行うのですが、経過良好ということで、今回の工事では表面の塗装のみを行えばよいと判断。
工事費用を節約します。
どれぐらいの節約になるの?
防水工事をするのとしないのとじゃ、1㎡あたり1万円ぐらい違いが出る。
総額で170万ぐらいの差になっただろうね。
けっこう浮くんだねー。
その代わり、もちろん防水保証はつかないよ。
次の大規模修繕までに漏水してしまうと困るんだけど、その可能性は低いと判断したんだ。
3.共用廊下・階段の修繕プラン
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廊下は全体的に良好でした。
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側溝のモルタル面には爆裂が見られるので、部分補修が必要。
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巾木のウレタン塗膜防水は劣化しており、部分補修が必要。
↑廊下の状態もおおむね良好でした。
側溝のモルタル面にひび割れや爆裂が見られ、巾木のウレタン塗膜防水が劣化していましたが、全体的に大きな劣化は見られません。
全面的に再防水を施す必要はなく、部分補修で対処可能と判断しました。
費用を節約できます。
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廊下の塩ビシート。経年による汚れが見られます。
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階段の塩ビシート。
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塩ビシートの剥離。
廊下や階段の長尺塩ビシートは、経年による汚れは見られるものの、大きな劣化はありません。 張り替えは行わず、表面を洗浄だけすることにしました。
端が剥がれてきている箇所があったので、シーリング材を打ち、部分補修します。
ここではどれぐらいの節約になったの?
全面補修をする場合と比べれば、1㎡あたり7〜8千円ぐらいの違いが出るだろう。 全体では150万円ぐらいの節約になったと思う。
うれしいね。
その代わり防水保証がつかないのはさっきと同じね。
リスクはゼロではないけれど、大丈夫だろうと判断した。
だといいけどね。
万が一漏水しても廊下だから生活への影響は少ないし、それに廊下の工事は足場をかけなくてもできるからさ、後からの再工事もやりやすいんだ。 そういうことも判断の材料にしてるんだよ。
4.目地(シーリング材)の修繕プラン
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外壁シーリング材の変退色と剥離が見られます。
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シーリング材の変退色と剥離が見られます。
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サッシ周り取り合い目地。
↑外壁やサッシ周りの目地(シーリング材)は、打ち替えるべきか迷いました。
経過良好の箇所もあったのですが、次の工事まで10年持つかといえば不安でした。
もしも5年後にダメになったら、足場をかけて直さなければいけません。
それでは費用がかかりすぎるので、リスクが高いと判断。全面的に打ち替えることにしました。
もしも新しいマンションであれば、雨のかからないところはシーリング材の打ち直しをしないという選択もあったのですが。
結局この部分では、お金を節約できなかったってこと?
うん、全面補修を選んだからね。
5.外壁の修繕プラン
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外壁に雨水が染み込んだ跡。
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外壁の爆裂とモルタルの浮き。
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外壁のひび割れと雨水の染み込み。
↑外壁はひどい状態でした。 塗装がベロベロに剥がれてきていて、ひび割れもしているので下地のコンクリートから直さなければいけません。 全面補修以外に打つ手なしと判断。
また全面補修ですか。
ここでも節約できなかったの?
いやね、実はちょっとだけできたんだよ。
外壁に塗る塗装材をワンランク下げて、コストカットに成功した。
へぇ、塗装材にもランクがあるんだ。
雨だれの汚れがつきにくい低汚染タイプと、さらに性能が上の超低汚染タイプがあるんだけど、今回は低汚染タイプを使った。
そんなに値段変わるの?
1㎡あたり150〜200円くらい違うかな。
10%ほどの節約になったと思うよ。
けっこう違うもんだ。
実は施工業者からの提案だったんだ。 自分は超低汚染タイプを使った方がいいんじゃないかと思ってたんだけど、低汚染タイプでも性能の良い塗装材を知ってますよって業者が提案してくれてさ。
親切な業者さんだね。
コンサル1人の知恵にも限りがあるからね。
みんなで知恵を出し合って、安くて良い工事を実現できればいいやね。
6.外壁タイルの修繕プラン
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外壁タイルがひび割れています。
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エフロレッセンス(雨水染み出し跡)を伴うひび割れ。
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だいぶ汚れが見られます。
↑外壁タイルは一部にひび割れが、また所々に「浮き」が見られました。
全体としてそこまで悪い状態でもなかったのですが、大きな問題が1つありました。
マンションの大部分のタイルが深目地であったという点です。
深目地とはデザイン性を高めるためにタイルの掘りを深くして張ったもののことです。 下の2つの写真を見比べてください。↓
深目地タイル
普通の外壁タイル
深目地は見た目はよろしいものの、タイルが剥がれやすくなるという欠点があり、さらに困ったことには修繕費用がかなり高くつきます。
このマンションは一部の外壁タイルを除き、ほとんどが深目地仕様。
外壁タイルの修繕に費用のかなりの部分が取られることは、当初から覚悟していました。
せめて張り替えるタイルの枚数を抑えたいところです。でなければ費用が予算内に収まりません。 この外壁タイル補修が今回の大規模修繕の鍵を握るでしょう。
けっきょく予算内に収まったの?
結果的には収まったんだけど、この時点ではまだ判断がつかなかった。
タイルの張替えをどのくらい抑えられるかにかかってたから。
抑えられると思ってたの?
経験から何とかなりそうだと思ってたけど、それでも不安だった。
実際に工事が始まって足場をかけて診断しないと、タイルが何枚傷んでるか正確にはわからないから。
でたとこ勝負なんだ。
大規模修繕でそれは仕方のないことなんだ。
最初から全てを計算することはできない。
もし予算オーバーしたらどうするつもりだったの?
鉄部塗装とかの、やっておきたいけれど削ろうと思えば削れる工事、が他にあったから、そこを削って費用を捻出したと思う。
それでも足りなかったら?
そうはならないだろうと思ってたけど、もしそうなったらマンションの人から一時金を徴収するか、資金の借り入れをするかしかなかっただろうね。
重い決断ですな。
この仕事の難しいところだよ。
7.鉄部の修繕プラン
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屋上高架水槽のサビ。
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高架水槽のベースプレートのサビ。
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メーターボックスのサビ。
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メーターボックスの塗膜の剥がれ。
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換気口がサビています。
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警報装置のサビ。
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駐車場盤類にサビ、塗装の退色・光沢低下。
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扉の塗装に退色・光沢低下。
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天井ダクトの塗膜が剥がれています。
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扉の塗装の退色。
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扉の塗装の退色。
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扉の塗装が退色しています。
↑鉄部の塗装には全体的にサビや塗装の退色・光沢低下が見られました。
必ずしも塗り直しが必要な箇所ばかりではありませんでしたが、塗装は美観を大きく左右します。
せっかく大規模修繕をするのですから、ピカピカのマンションにしたいのが人情です。
きれいになったマンションを見れば、工事が成功したと実感できますし、管理組合の絆も深まることでしょう。
全面的な塗り直しを行うことにしました。
ただし機械式駐車場パレットの塗装は見送っています。
本当はここも再塗装をしたかったのですが、ワンパレット6〜8万ほどし、トータルで100万の支出になります。
美観に与える影響が少ないこともあり、管理組合と相談のうえ、今回は不要と判断。
資金に制約がある中では、時にこうした決断も求められます。
8.その他の箇所の修繕プラン
インターホンも古くなり不具合が生じていたので、交換することにしました。
最新式とまでいかずともせめてカメラ付きのものにしたかったのですが、100万円ほど高くなってしまうので断念。
これまでと同じ音声通話のみのもので我慢します。
量水器周りの給水管の交換も行うことにしました。
これは先の話になりますが、給水管だけはその他の箇所とは別の施工業者に依頼しています。
安く引き受けてもらうことができたからです。
このように、修繕箇所によって施工業者を分けることで費用の削減につながることがあります。 知恵を絞ってなんとか予算内に収めるのがコンサルタントの仕事です。
9.足場の工夫
工事を始めるまえに足場を組むのですが、今回の工事では通常使われる「枠組み足場」ではなく、「くさび足場」と呼ばれる組み立てが簡単な足場を使いました。
くさび足場は高層マンションには使えないかわりに、今回のような小規模マンションにはうってつけです。 1㎡あたり200円ほど、全体の約10%のコストダウンを図れます。30万円ほど費用が浮いたと思います。
足場のかけかたも工夫しています。
ステージを組んで、その上に足場をかけました。
↓下の図を見てください。駐車場の上に屋根をかけてステージを作れば、駐車場の車を移動する必要がありません。 居住者のストレスが減り、外部に代わりの駐車場を借りる必要もなくなるので、コストダウンにもつながります。
普通の足場
ステージを組んだ足場
ステージを組むのに4〜50万円かかるのですが、駐車場を借りなくてすむことを考えれば、トータルで50万円ほどの節約になるだろうと計算しました。
施工業者から見積もりを取ろう
以上が今回の工事におけるイダケンのプランニングです。
何とか予算の枠に収まりそうでしたが、この時点ではまだ施工業者に見積もりを取っていないので、机上の計算です。
次はいよいよ施工業者を選ぶ段階です。
安くて良い業者の選定にどのように取り組んだのか、ご紹介します。
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