ヒビ割れしない薄塗りモルタルで、壁を美しく修繕
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おさらいしておこう。このマンションには、工事の難しい箇所が3つあるんだった。↓
- バルコニーの防水
- 駐車場天井の防水
- プロムナードデッキの補修
お次は3番目、プロムナードデッキの補修について、どんな苦労があったか聞いてほしい。
どうぞ。
ところでプロムナードデッキって何?
敷地や通路を囲う壁のこと。このマンションではプロムナードデッキという名前で呼ばれていたの。 写真のコンクリートの部分ね。↓
この壁は新築してから一度も補修をしてないから、爆裂が起きていたりとひどい状態だった。
でも直すにはお金が足りません、のいつものパターン?
これまではそうだったみたいだね。資金がないから補修を断念していた。 でも今回は、まぁ何とか資金の範囲におさまりそうな感じではあった。
だったら何が問題なのさ?
美観の問題だったんだよ。外壁を補修すると、その跡が残ってしまうじゃないか。 だから普通はその上から仕上げの塗装をして、補修の跡を隠すわけ。
それで?
でもこのマンションの壁は打ちっぱなしのコンクリートだから、上から塗装をするとせっかくのコンクリートの風合いが失われてしまう。
コンクリートの風合い?
塗装したほうが綺麗なんじゃないの?
さっきの写真の壁はボロボロだからわかりにくいけどさ、もともとの壁はこういうイメージなのよ。↓
あ、なるほど。
綺麗だねこれは。
この壁を補修してから塗装をしたら、安っぽくなりそうじゃないか。 せっかくの高級感が失われる恐れがある。
じゃあ補修だけして、塗装をしなければいいじゃない。
それも選択肢の1つではあるけど、それだと補修の跡が目立ってしまって、それはそれで美しくないのだ。
ふ〜ん、
なんか割とどうでもいい問題な気もするけどね。
住んでる人にとっては美観も重要なんだよ。 それが資産価値でもあるし、マンションがぴかぴかになれば、大規模修繕をやった甲斐があるというものじゃないか。
まぁそうだけど。
管理組合が気に入っている美観は、なるべく残す方向で。 コンサルがそこに労を惜しんではいけない。
でもなにか展望があったわけ?
塗装材を工夫すれば何とかなるかもしれないと思った。 元のコンクリートの風合いを損なわない塗装剤も、探せば見つかるんじゃないのかなと。
見つかりましたか?
2つほど候補を見つけて、試しにそれで一部を塗ってみて、管理組合に見てもらった。
そしたら?
あんまり好評ではなかった。 やっぱり安っぽくてイマイチだね、という反応。
あらま。
でもそのときは、まぁ仕方ないかということで、管理組合もそこまで問題にしなかった。 その塗装材でいくことにして、施工業者から見積りもとった。
妥協してくれたんだ。
うん一旦は。だけどその後すぐに、やっぱり待てよという話になってね、 ここで妥協をしたらずっと後悔するかもしれないという意見が出てきて・・
出てきて。
話し合った結果、やっぱり美観は簡単に妥協すべきではない、との結論に達した。 もっとみんなで努力してみましょうと。
何をどう努力するのさ?
安っぽくならない塗装材や仕上げ材を、もっとよく探してみようじゃないかと。
そんなのあるの?
あるかどうか探してみるの。 ウチの事務所と管理組合、それぞれがツテやインターネットを使って、片っ端から探した。
管理組合も一緒に探したの? そんなことまでするんだ。
すごく熱心なマンションだったの。
何か見つかった?
薄塗りモルタルという材料が救世主になってくれそうなことがわかった。 これ管理組合が見つけてきてくれたんだ。
どんな材料?
要するにコンクリートみたいな質感の仕上げ材ですわね。 上からこれを塗って補修の跡を隠しましょうってこと。↓
これなら元のコンクリートの風合いを損なわずに補修の跡を隠せる。
あのさ、よくわかんないけど、それってかなり単純な発想なんじゃないの? 最初から思い付くことはできなかったの?
薄塗りモルタルという材料があることは前から知ってはいたよ、こっちだって。
じゃ何でそれを言わなかったのさ。
薄塗りモルタルってヒビ割れしやすいんだよ。 絶対割れると思ってたから、選択肢から外してたの。
じゃ何でとつぜん選択肢になったのさ。
その会社の薄塗りモルタルは特製で、ヒビ割れしないとわかったから。
なんじゃそりゃ。
そんな都合のいい材料が突如として発見されたの?
発見されたんだねこれが。
しょーもない展開だな。
不勉強だったんじゃないの?
薄塗りモルタルがヒビ割れしやすいのは常識なんだよ。 ゼネコンにアドバイスを求めたときだって、そう言われたし。
みんな当てにならないんだね。
まぁそりゃプロだって日本中全ての材料を知ってるわけじゃないからね。 今この瞬間にだって、どこかの会社が新しい製品を出してるかもしれない。 その全てを追えますかって話だよ。
じゃあ何でも探してみるべきだね。
そうね、諦めずに探すことでピッタリの材料が見つかるかもしれない。
しれない。
でもそれも管理組合の支えがあってこそなんだよ。 あるかどうかもわからない材料を探してみますか?と提案したって、普通はめんどくさいからもういいよ、の反応だと思う。
そうかな。
準備期間が延びちゃうし、候補の材料が見つかるたびに、これはどうでしょうってみんなで集まって検討しないといけないんだよ? 会議、会議、会議でウンザリしちゃうわけ。
まぁそうかもですな。
それをこのマンションはめんどくさがらずに徹底的に時間をかけて検討を重ねた。 大規模修繕の成否は、結局のところ管理組合の情熱にかかっているということが、よくわかるケースだね。
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